ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

二次創作

『月見草』宮沢賢治

道が小さな橋にかゝる。 螢がプイと飛んで行く。 とにかくそらが少し明るくなった。 夜明けにはまだ途方もないしきっと雲が薄くなって月の光が透とほって来るのだ。 月見草が幻よりは少し明るくその辺一面浮んで咲いてゐる。 マッチがパッとすられ莨(たばこ…

『詩について語らず』高村光太郎

Leszek.Leszczynski 元来私が詩を書くのは実にやむを得ない心的衝動から来るので、 一種の電磁力鬱積のエネルギー放出に外ならず、 実はそれが果して人のいう詩と同じものであるかどうかさえ 今では自己に向って確言出来ないとも思える時があります。 … 私は…

『晩夏』高祖保

わが家の棟を超える、秋ちかい夜かぜのいちまいが、 なにか、息ながい囁きをゆりこぼしながら、 ゆつくり、隣の家へと、ふき移る。 ふるい家が、鷹揚に軋んで、 それに応らへしてゐるのが、聴きとれる。ふかい夜を。 jonathan.leung この「ささやき」と「い…

寺田寅彦 初嵐

工藤隆蔵 夕方井戸水を汲んで頭を冷やして全身の汗を拭うと 藤棚の下に初嵐の起るのを感じる。 これは自分の最大の贅沢である。 工藤隆蔵 夜は中庭の籐椅子に寝て星と雲の往来を眺めていると時々流星が飛ぶ。 雲が急いだり、立止まったり、消えるかと思うと…

『夏の嘆き』伊東静雄

Ramon Harkema われは叢(くさむら)に投げぬ、熱き身とたゆき手足を。 されど草いきれは わが体温よりも自足(じそく)し、 わが脈搏(みやくうち)は小川の歌を乱しぬ。 夕暮よさあれ中つ空に はや風のすずしき流れをなしてありしかば、 鵲(かさゝぎ)の…

ターナーが汽車を写すまでは汽車の美を解せず

夏目漱石『草枕』 今週のお題「わたしと乗り物」 ookumaneko127.hatenablog.com

青春の魚

腮から血をながして ひきあげられて来るまでは あなたは魚ではなかった 村野四郎『青春の魚』 *sean 腮(えら)

『夏の寂寥』若山牧水

柘榴の茂み檜葉の茂みを透いて、 紺の色の空が見えた。 浮雲ひとつ無い空だ、 めらめらと燃える樣にとも、 または、 死にゆく靜けさを持つたとも、 いづれとも云へる眞夏の空だ。 十本たらずの庭木の間に立つて、 ぼんやりとその空を仰ぎながら、 ぼんやりと…

『いかなれば』伊東静雄

Takashi Hososhima いかなれば今歳(ことし)の盛夏のかがやきのうちにありて、 なほきみが魂に去年(こぞ)の夏の日のひかりのみあざやかなる。 今週のお題「夏休み」 ookumaneko127.hatenablog.com ookumaneko127.hatenablog.com

いづこにか夕立ありし冷奴『小津安二郎全日記』

今週のお題「夏休み」 torne 今日までが、二十四節気大暑の末候、 大雨時行(たいうときどきふる)です。 夕立ちがザッと来て、暑さも息苦しさも、持って行ってほしいものです。 もちろん、多くは要りませんけれど…。 昨日(8月6日)投稿しそびれた記事です。

『金のトマト』宮沢賢治

今週のお題「夏休み」 Mika Kojima 博物館の蜂鳥が教えてくれました。小さな兄妹のお話を。二人の小麦を挽く仕事、キャベジの収穫のお話を。ある年ふたりのトマトの苗が、だんだんと大きくなって、葉からはトマトの青いにおいがし、茎からはこまかな黄金の粒…

『蚊遣火』櫻間中庸

peaceful-jp-scenery(busy) 厩のねわらを かへたあと 庭に蚊遣火 たきました 弟ねかして 母さんは そつと となりへ 風呂もらひ 宿題してゐる まどのそと 遠くで花火の 消える音 今週のお題「夏休み」 ookumaneko127.hatenablog.com ookumaneko127.hatenablog…

寺田寅彦 『牧神の午後』

街路のアスファルトの表面の温度が華氏の百度を越すような日の午後… 私はドビュシーの「牧神の午後」を思いだす。 行き交う人々が鹿のように鳥のようにまたニンフのように思われてくるのである。 あらゆる人間的なるものが、暑さのために蒸発してしまって、 …

『女はライラツクのにほひを好むと』櫻間中庸

Tamaki Sono 女は ライラツクのにほひを好むと ストローはメロンソーダ水を吸ひあげる 私は女のにほひを吸ひあげる ookumaneko127.hatenablog.com

『金魚は青空を食べてふくらみ』櫻間中庸

broterham 金魚は青空を食べてふくらみ 鉢の中で動かなくなる 鳩だか 鉢のガラスにうすい影を走らせる 來たのは花辨(はなびら)か 白い雲の斷片 ookumaneko127.hatenablog.com ookumaneko127.hatenablog.com ookumaneko127.hatenablog.com

寺田寅彦『涼味』

中学時代に友人二三人と小舟をこいで浦戸湾内を遊び回った ある日のことである。 昼食時に桂浜へ上がって、豆腐を二三丁買って来て醤油をかけて むしゃむしゃ食った。 その豆腐が、たぶん井戸にでもつけてあったのであろう、 歯にしみるほど冷たかった。 炎…

涼しい記事あります

Chris Combe つめたいゼラチンの霧もあるし 桃いろに燃える電気菓子もある またはひまつの緑茶をつけたカステーラや なめらかでやにっこい緑や茶いろの蛇紋岩 むかし風の金米糖でも wavellite (銀星石)の牛酪(バター)でも またこめつがは青いザラメでで…

『夏の日の夢』小泉八雲

今週のお題「海」 『19世紀のあらゆる罪悪』 その一端を背負った一人の西欧人。 そして餌食たる 東の果ての島国の 西の果ての地。 天草の海は青い。 みんな青色だ。 夢のようだ。 ああ、これはきっと夢だ。 (酷暑に耐え切れず)長崎から逃げ帰ったラフカディ…

『初夏』中原中也

扇子と香水―― 君、新聞紙を絹風呂敷には包みましたか 夕の月が風に泳ぎます アメリカの国旗とソーダ水とが 恋し始める頃ですね timothy-meinberg

中原中也 『海の詩』

Riccardo Romano 海はなが身の鏡にて、 はてなき浪の蕩揺に、 汝はなが魂 打眺む うみはながみのかがみにて はてなきなみのたゆたひに なれはながたま うちながむ ボオドレエル 『人と海』 訳 中原中也 今週のお題「海」 ookumaneko127.hatenablog.com

海辺の恋

今週のお題「海」 Face-2-Face こぼれ松葉をかきあつめ をとめのごとき君なりき、 こぼれ松葉に火をはなち わらべのごときわれなりき。 わらべとをとめよりそひぬ ただたまゆらの火をかこみ、 うれしくふたり手をとりぬ かひなきことをただ夢み、 入り日のな…

聲曲(もののね)

われはきく、よもすがら、 わが胸の上(うへ)に、君眠る時、 吾は聽く、夜の靜寂(しづけき)に、 滴(したゝり)の落つるを將(はた)、落つるを。 常にかつ近み、かつ遠み、 絶間(たえま)なく落つるをきく、 夜もすがら、君眠る時、君眠る時、われひと…

雨が、さっと降り出した

停車場へ着いたときで 季節は卯の花くだしである。 雨はその花を乱したように、夕暮れに白かった。 やや大粒に見えるのを、もし掌にうけたら、 冷く、そして、ぼっと暖かに消えたであろう。 空は暗く、風も冷たかったが、 湯の町の但馬の五月は、爽やかであ…

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 3

Masayuki Sugita 香の煙の消えるともなく弱つて往く頃には、私の心も軽い疲労をおぼえて来ますので、私は起つて窓障子を押し開きます。心のうちに落ちてゐるとのみ思つてゐた雨は、外にも同じやうに降りしきつてゐるのでした。薄暗い庭の片隅に、紫陽花が花…

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 2

香を焚くのは、どんな場合にもいいものですが、とりわけ梅雨の雨のなかに香を聞くほど心の落ちつくものはありません。私は自分一人の好みから、この頃は白檀を使ひますが、青葉に雨の鳴る音を聞きながら、じつと目をとぢて、部屋一ぱいに漂ふ忍びやかなその…

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 1

Bong Grit 私は雨の日が好きです。それは晴れた日の快活さにも需(もと)めることの出来ない静かさが味ははれるからであります。毎日毎日降り続く梅雨の雨は、私のやうな病気勝ちな者にとつては、いくらか鬱陶し過ぎるやうですが、それすらある程度まで外界…

芥川龍之介『蕗』

Chris Morriss 坂になった路の土が、砥(と)の粉のやうに乾いてゐる。 寂しい山間の町だから、路には石塊(いしころ)も少くない。 両側には古いこけら葺(ぶ)きの家が、ひつそりと日光を浴びてゐる。 僕等ふたりの中学生は、その路をせかせか上ぼつて行つ…

父の日に

今週のお題「おとうさん」 よく怒(い)かる人にてありしわが父の 日ごろ(この頃)怒からず 怒れと思ふ 石川啄木 Janet Bland

雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである

今週のお題「雨の日の楽しみ方」 降るか照るか、私は曇日を最もきらふ。 どんよりと曇つていられると、頭は重く、手足はだるく 眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。 むろんなし事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦…

小津安二郎『ここが楢山』

今週のお題「母の日」 母は明治八年生れ。三男二女をもうけて、僕はその二男に当る。他の兄妹は、それぞれ嫁をもらい、嫁にゆき、残った母と僕との生活が始まってもう二十年以上になる。 一人者の僕の処が居心地がいいのか、まだまだ僕から目が放せないのか…