ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

永井荷風

『夏の町』永井荷風

枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、 昼も蚊の鳴く植込の蔭には、 七たびも色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。 梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと 誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。 そして炎暑の明るい寂寞が都会を…

『雪の日』永井荷風

Masaki Tokutomi 曇つて風もないのに、寒さは富士おろしの烈しく吹きあれる日よりも猶更身にしみ、火燵にあたつてゐながらも、下腹がしく/\痛むといふやうな日が、一日も二日もつゞくと、きまつてその日の夕方近くから、待設けてゐた小雪が、目にもつかず…