ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

萩原朔太郎

萩原朔太郎『夢』(とらうむ)

あかるい屏風のかげにすわつて あなたのしづかな寢息をきく。 香爐のかなしい烟のやうに そこはかとたちまよふ 女性のやさしい匂ひをかんずる。 かみの毛ながきあなたのそばに 睡魔のしぜんな言葉をきく あなたはふかい眠りにおち わたしはあなたの夢をかん…

萩原朔太郎『殺人事件』

お題「好きなシリーズもの」 Jeronimoooooooo とほい空でぴすとるが鳴る。 またぴすとるが鳴る。 ああ私の探偵はガラスの衣裳をきて、 こひびとの窓からしのびこむ、 床は水晶、 ゆびとゆびとのあひだから、 まつさをの血がながれてゐる、 かなしい女の屍体…

萩原朔太郎『蝶を夢む』

Albert Vuvu Konde 座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼(はね)をひろげる 蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と 紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。 わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。 しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする …

萩原朔太郎『殺人事件』

jeronimoooooooo とほい空でぴすとるが鳴る。 またぴすとるが鳴る。 ああ私の探偵はガラスの衣裳をきて、 こひびとの窓からしのびこむ、 床は水晶、 ゆびとゆびとのあひだから、 まつさをの血がながれてゐる、 かなしい女の屍体のうへで、 つめたいきりぎり…

『秋』萩原朔太郎

工藤隆蔵 白雲のゆききもしげき山の端に 旅びとの群はせはしなく その脚もとの流水も しんしんめんめんと流れたり ひそかに草に手をあてて すぎ去るものをうれひいづ わがつむ花は時無草の白きなれども 花びらに光なく 見よや空には銀いろのつめたさひろごれ…

『秋の日』萩原朔太郎

今週のお題「散策の秋」 the dreamer (swades1986.blogspot.in) ちまた、ちまたを歩むとも ちまた、ちまたに散らばへる 秋の光をいかにせむ たそがれどきの差し含(さしぐ)める 我が愁(うれひ)をばいかにせむ 捨身に思ふ我が身こそ びいどろ造りと成りて…

萩原朔太郎『閑雅な食慾』

今週のお題「わたしの課外活動」 工藤隆蔵 松林の中を歩いて あかるい氣分の 珈琲店(かふえ)をみた 遠く市街を離れたところで だれも訪づれてくるひとさへなく 松間の かくされた 追憶の 夢の中の 珈琲店である。 をとめは戀戀の羞をふくんで あけぼののや…