ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

萩原朔太郎『蝶を夢む』

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                    Albert Vuvu Konde



 

 

 

 

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼(はね)をひろげる 

 

蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と

 

紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。

 

わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。

 

しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする

 

 

 

夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語

 

水のほとりにしづみゆく落日と

 

しぜんに腐りゆく古き空家にかんするかなしい物語。

 

 

夢をみながら わたしは幼な兒のやうに泣いてゐた

 

たよりのない幼な兒の魂が

 

空家の庭に生える草むらの中で しめつぽいひきがへるのやうに泣いてゐた。

 

もつともせつない幼な兒の感情が

 

とほい水邊のうすらあかりを戀するやうに思はれた

 

ながいながい時間のあひだ わたしは夢をみて泣いてゐたやうだ。

 

 

あたらしい座敷のなかで 蝶が翼をひろげてゐる

 

白い あつぼつたい 紙のやうな翼をふるはしてゐる。