ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

高村光太郎

高村光太郎『晩餐』

Taidoh 暴風(しけ)をくらつた土砂ぶりの中を ぬれ鼠になつて 買つた米が一升 二十四銭五厘だ くさやの干ものを五枚 沢庵を一本 生姜の赤漬け 玉子は鳥屋(とや)から 海苔は鋼鉄をうちのべたやうな奴 薩摩あげ かつをの塩辛(しほから) 湯をたぎらして 餓…

空は碧いという けれども私はいう事が出来る 空はキメが細かいと

photo Rain Drop 私は彫刻家である。多分そのせいであろうが、私にとってこの世界は触覚である。触覚はいちばん幼稚な感覚だと言われているが、しかもそれだからいちばん根源的なものであると言える。彫刻はいちばん根源的な芸術である。人は五官というが、…

『詩について語らず』高村光太郎

Leszek.Leszczynski 元来私が詩を書くのは実にやむを得ない心的衝動から来るので、 一種の電磁力鬱積のエネルギー放出に外ならず、 実はそれが果して人のいう詩と同じものであるかどうかさえ 今では自己に向って確言出来ないとも思える時があります。 … 私は…

高村光太郎『梟の族』

Carolyn Lehrke ――聞いたか、聞いたか ぼろすけぼうぼう―― 軽くして責なき人の口の端 森のくらやみに住む梟(ふくろふ)の黒き毒に染みたるこゑ 街(ちまた)と木木(きぎ)とにひびき わが耳を襲ひて堪へがたし わが耳は夜陰に痛みて 心にうつる君が影像を…

高村光太郎『冬の朝のめざめ』

faungg's photos 冬の朝なれば街(ちまた)より つつましくからころと下駄の音も響くなり 大きなる自然こそはわが全身の所有なれ しづかに運る天行のごとく われも歩む可し するどきモツカの香りは よみがへりたる精霊の如く眼をみはり いづこよりか室の内に…

『あれが阿多多羅山』

あの光るのが阿武隈川。 ここはあなたの生れたふるさと、 あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒ぐら。 それでは足をのびのびと投げ出して、 このがらんと晴れ渡つた北国の木の香に満ちた空気を吸はう。 あなたそのもののやうなこのひいやりと快い、 すん…