ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

薄田泣菫

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 3

Masayuki Sugita 香の煙の消えるともなく弱つて往く頃には、私の心も軽い疲労をおぼえて来ますので、私は起つて窓障子を押し開きます。心のうちに落ちてゐるとのみ思つてゐた雨は、外にも同じやうに降りしきつてゐるのでした。薄暗い庭の片隅に、紫陽花が花…

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 2

香を焚くのは、どんな場合にもいいものですが、とりわけ梅雨の雨のなかに香を聞くほど心の落ちつくものはありません。私は自分一人の好みから、この頃は白檀を使ひますが、青葉に雨の鳴る音を聞きながら、じつと目をとぢて、部屋一ぱいに漂ふ忍びやかなその…

『雨の日に香を薫く』薄田泣菫 1

Bong Grit 私は雨の日が好きです。それは晴れた日の快活さにも需(もと)めることの出来ない静かさが味ははれるからであります。毎日毎日降り続く梅雨の雨は、私のやうな病気勝ちな者にとつては、いくらか鬱陶し過ぎるやうですが、それすらある程度まで外界…