ookumanekoのブログ

言葉を味わう。文学の楽しみ。

ディケンジアン

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tv.rakuten.co.jp

ディケンズの物語の登場人物たちを、縦糸と横糸に配し、新たに紡ぎ出された創作世界。

19世紀の霧の都ロンドンに繰り広げられる、クライムサスペンスドラマ。

 

 


今朝は、当地はめずらしく霧が掛かっています。

改装して新しくなった赤字病院の高い棟も、
山を崩して造った忌まわしいマンションも
今は薄白く、水蒸気に覆われて見えています。

ついでにわたしのアタマにも…笑


霧といえば、
今夢中で読んでいる本。

 

 

 

 

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          ディケンズ クリスマスキャロル



 

www.aozora.gr.jp

 





ドラマの時代の霧の都ロンドンは、
石炭の排ガスと水蒸気が混じった、ドロドロの
体に悪そうな空気に覆われていたそうです。

感想文としてまとまったら、
そのうち記事にするかも知れません。

 

 

 

 

 

 

 

 

国木田独歩『小春』

イメージ 1
写真 工藤隆蔵
 
 
 

 

 

 

 

一年の熱去り、

 

 

気は水のごとくに澄み、

 

 

天は鏡のごとくに 磨かれ、

 

 

光と陰といよいよ明らかにして、

 

 

いよいよ映照せらるる時

 

 

 

 

 

 

 

ウィリアム・ワーズワース 訳 国木田独歩

 

 
 
 


 









今週のお題「秋の空気」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

萩原朔太郎『蝶を夢む』

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                    Albert Vuvu Konde



 

 

 

 

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼(はね)をひろげる 

 

蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と

 

紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。

 

わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。

 

しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする

 

 

 

夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語

 

水のほとりにしづみゆく落日と

 

しぜんに腐りゆく古き空家にかんするかなしい物語。

 

 

夢をみながら わたしは幼な兒のやうに泣いてゐた

 

たよりのない幼な兒の魂が

 

空家の庭に生える草むらの中で しめつぽいひきがへるのやうに泣いてゐた。

 

もつともせつない幼な兒の感情が

 

とほい水邊のうすらあかりを戀するやうに思はれた

 

ながいながい時間のあひだ わたしは夢をみて泣いてゐたやうだ。

 

 

あたらしい座敷のなかで 蝶が翼をひろげてゐる

 

白い あつぼつたい 紙のやうな翼をふるはしてゐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恋』宮沢賢治

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Andy Simonds




草穂のかなた雲ひくき

 

ポプラの群にかこまれて

 

鐘塔白き秋の館

 

 

かしこにひとの四年居て

 

あるとき清くわらひける

 

そのこといとゞくるほしき








 
 
 
 
 今週のお題「秋の空気」
 
 
 
 
 
 
 
 

萩原朔太郎『殺人事件』

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                    jeronimoooooooo



 

 

 

 

とほい空でぴすとるが鳴る。

 

またぴすとるが鳴る。

 

ああ私の探偵はガラスの衣裳をきて、

 

こひびとの窓からしのびこむ、

 

床は水晶、

 

ゆびとゆびとのあひだから、

 

まつさをの血がながれてゐる、

 

かなしい女の屍体のうへで、

 

つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。

 

 

 

しもつきはじめのある朝、

 

探偵はガラスの衣裳をきて、

 

街の十字巷路(よつつじ)を曲つた。

 

十字巷路に秋のふんすゐ、

 

はやひとり探偵はうれひをかんず。

 

 

 

みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、

 

曲者(くせもの)はいつさんにすべつてゆく。

 

 

 

 

 

萩原朔太郎『月に吠える』 編集あり)

 

 

 

 

 

禍々しくゆきましょう。秋ですものね

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

『ジキル博士とハイド氏』

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                    flicker

 

 

  

 

『人間は完全かつ本源的に二重性格のものであることを悟った…

 

自分が相争っている二つの性質のどちらかであると誤りなく言えるとしても、

 

それはもともとわたしがその二つを兼ね備えているからにすぎない』

 

ヘンリー・ジキルの陳述書より 

 

 

 

 
 
 
 
 

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原作は言わずと知れたスティーヴンソンの怪奇小説です。
 
 
待ち合わせ時間に早すぎ、時間つぶしに買った短編。
 
しかし、読んでみて驚きました。
 
ストーリーのエキセントリックさとは裏腹に、非常に名文です。
 
二十世紀中おそらく二十指に入る名文で認められた、傑作です。
 
 
 
 Halloween inspired
 
 
 
 
 

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バッハ トッカータとフーガ ニ短調 オルガン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ホラーです(閲覧注意)

Halloween inspired)

 

「耳鼻科には行ってるの?」
朝食のときだ。夫が新聞を見ながら聞いた。

「ううん、行ってない」
「通わないと治らないよ」
妻は返事をしなかった。
もう一ヶ月病院へは行っていない。夫は今ごろ気が付いた。

妻は体の不調が何かと耳に出る。
風邪で熱が出ると耳がふさがったような感じになり、ひどいときは痛みを伴う。
取りあえず内科で風邪の診察を受け、耳の不調を言うと
「それは耳鼻科に行って下さい」
と言われる。
しかし、薬で風邪が治り耳の痛みも治まると、わざわざもう一度、耳鼻科に行く程でもないと思い、放っておいてしまう。
そんなことを何度もくり返したせいか、どうも最近左耳の聞こえが悪いようだ。
自分では気が付かず家族に言われ、妻は耳鼻科に行ったのだった。

初めて見る耳鼻咽喉科は陰鬱な場所だった。
暗い待合室、無口な受け付けの女性。そして診察室に通されると、診察台に並べられた金属の器具類が鈍く光っている。その他は何もない殺風景な空間だ。
ふと、これはどこかで見た光景だなと思った。
そこへ白衣を着た医師が入ってきた。
背が高く威圧感がある、無表情で無愛想な感じだ。
「どうしました?」
「今からこの金属を鼻に通しますから」
(うあっ、ホントに冷たい棒が鼻の奥まで入ってきた)
と妻は苦悶の面相で思っていた。
顔が自然とムンクの叫びみたいになる。
いや、「だっふんだ」の顔だ。あれそっくり。
おまけに涙と鼻水が後から出てくる。
「繋がっていないな」
患者の形相にも、特に何の感慨も感じていない様子の医師が機械的に言った。
妻の耳は鼻と上手く通っていないらしい。
暫く通うことになった。

何回目かの診察の時、
医師は毎回同じように金属の棒を鼻の奥まで挿入する。そして空気を通す。

患者はその間、例の顔をして耐えなければならない。何回やっても慣れない。
これじゃあ拷問だ。
涙と鼻水を拭きながら、ようやく吸引を終えて帰ろうとすると、めずらしく医師がまだ診察室にいた。
「ありがとうございました」
医師に頭を下げてドアに向かうと目の前に鏡があった。
そこに医師が映っていた。
医師は患者に見られていることに気が付いていない。
いつも苦虫を噛み潰したような顔の医師が、鏡の中でニンマリと笑っていた。
さも満足げに。

帰りの道すがら、釈然としない気持ちで歩いていた。
(大体が、医療行為というものに人間の尊厳などあったものじゃない。患者は一個の動物に成り果てる。)

と突然、ひらめくものがあった。
妻はどこかで見たことのあるあの診察室の風景が、なんであるかを思い出したのだ。
昔観た映画だ。
未来世紀ブラジル
未来の絶望的な管理社会をアナログっぽく描く、テリー・ギリアム監督の真骨頂。
拷問を職務とする公務員の男が、白衣を着てお面をかぶり、あんな金属の器具を仕事に使っていた……。
 
 
 
 

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妻はそれきり、耳鼻科には行かなくなった。

耳鼻科医は決して笑ってはいけない。少なくとも鏡のある診察室では。