ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

宮沢賢治

『恋』宮沢賢治

Andy Simonds 草穂のかなた雲ひくき ポプラの群にかこまれて 鐘塔白き秋の館 かしこにひとの四年居て あるとき清くわらひける そのこといとゞくるほしき ookumaneko127.hatenablog.com 今週のお題「秋の空気」

『セレナーデ 恋歌』宮沢賢治

今週のお題「秋の空気」 flicker 江釣子(えづりこ)森の右肩に 雪ぞあやしくひらめけど きみはいまさず ルナの君は見えまさず 夜をつまれし枕木黒く 群あちこちに安けれど きみはいまさず とゞろにしばし行きかへど きみはいまさず ポイントの灯はけむれど…

『饗宴』宮沢賢治

今週のお題「わたしの課外活動」 ya-itt ひとびと酸き胡瓜を噛み やゝに濁れる黄の酒の 陶の小盃に往復せり そは今日賦役に出でざりし家々より 権左エ門が集め来しなれ まこと権左エ門の眼双に赤きは 尚褐玻璃の老眼鏡をかけたるごとく 立つて宰領するこの家…

宮沢賢治『九月の雨』

痩せて青めるなが頬は 九月の雨に聖(きよ)くして ひとすぢ遠きこのみちを 草穂のけぶりはてもなし (青柳教諭を送る 宮沢賢治 一部編集あり photo ちいた)

セロ弾きのゴーシュ

おいらはセロ弾き、しがない楽士。 今日も今日とて動かぬ指が 弦の上もたもたと歩く。 楽長に怒られ、仲間にゃにらまれ。 赤ん坊のスプーンしごと 一朝一夕にいくものか。 トオテテ テテテイ つまりこういうことかな? あいつら毎晩手を替え品を替え、 おい…

『月見草』宮沢賢治

道が小さな橋にかゝる。 螢がプイと飛んで行く。 とにかくそらが少し明るくなった。 夜明けにはまだ途方もないしきっと雲が薄くなって月の光が透とほって来るのだ。 月見草が幻よりは少し明るくその辺一面浮んで咲いてゐる。 マッチがパッとすられ莨(たばこ…

『金のトマト』宮沢賢治

今週のお題「夏休み」 Mika Kojima 博物館の蜂鳥が教えてくれました。小さな兄妹のお話を。二人の小麦を挽く仕事、キャベジの収穫のお話を。ある年ふたりのトマトの苗が、だんだんと大きくなって、葉からはトマトの青いにおいがし、茎からはこまかな黄金の粒…

涼しい記事あります

Chris Combe つめたいゼラチンの霧もあるし 桃いろに燃える電気菓子もある またはひまつの緑茶をつけたカステーラや なめらかでやにっこい緑や茶いろの蛇紋岩 むかし風の金米糖でも wavellite (銀星石)の牛酪(バター)でも またこめつがは青いザラメでで…

宮沢賢治『猫』

C*A(t) (四月の夜、とし老った猫が) 友達のうちのあまり明るくない電燈の向ふにその年老った猫が しづかに顔を出した。(アンデルゼンの猫を知ってゐますか。 暗闇で毛を逆立てゝパチパチ火花を出すアンデルゼンの猫を。)実になめらかによるの気圏の底を…

『ゆがみつゝ月は出で』宮沢賢治

Sweet Ice Cream Photography on Unsplash ゆがみつゝ月は出でうすぐもは淡くにほへり汽車のおとはかなく恋ごゝろ風のふくらしペンのさやうしなはれ山の稜白くひかれり汽車の音はるけくなみだゆゑ松いとくろしかれ草はさやぎてわが手帳たゞほのかなり PM2.5 …

宮沢賢治『霙』

Jonatan Pie 今宵南の風吹けば 霙(みぞれ)となりて窓うてる その黒暗のかなたより あやしき鐘の声すなり 雪をのせたる屋根屋根や 黒き林のかなたより かつては聞かぬその鐘の いとあざけくもひゞきくる そはかの松の並木なる 円通寺より鳴るらんか はた飯豊…

『県道』宮沢賢治

鳥居の下の県道を 砂塵おぼろにあとひきて青竹(あをたけ)いろのトラック過ぐる枝垂の栗の下影に鳥獣戯画のかたちして相撲をとれる子らもあり

『隅田川』宮沢賢治

Hank Lee 水はよどみて 日はけぶり桜は青き 夢の列(つら)汝(な)は酔ひ痴しれて うちをどる泥洲の上に うちをどる母をはるけき なが弟子は酔はずさびしく そらを見るその蘆生えの 蘆に立ちましろきそらを ひとり見る

春と修羅』宮沢賢治

Masaki Tokutomi 蜂が一ぴき飛んで行く 琥珀細工の春の器械 蒼い眼をしたすがるです (私のとこへあらはれたその蜂は ちやんと抛物線の図式にしたがひ さびしい未知へとんでいつた) 『鈴谷平原』 春と修羅 宮沢賢治 すがる ジガ蜂の古称

『開墾』 宮沢賢治

Bobobonehead(NIX) 落ちしのばらの芽はひかり 樹液はしづにかはたれぬ あゝこの夕つゝましく きみと祈らばよからんを きみきたらずばわが成さん この園つひにむなしけん 西天黄ばみにごれるに 雲の黒闇の見もあへず

『早春独白』宮沢賢治

Masaki Tokutomi 黒髪もぬれ荷縄もぬれてやうやくあなたが車室に来ればひるの電燈は雪ぞらにつき窓のガラスはぼんやり湯気に曇ります 身丈にちかい木炭(すみ)すごを地蔵菩薩の龕(がん)かなにかのやうに負ひ 山の襞もけぶってならび堰堤(ダム)もごうご…

『雪の行軍』宮沢賢治

Arturo de Frias Marques 早くもひとり雪をけりはるかの吹雪をはせ行くは木鼠捕りの悦治なり 三人ひとしくはせたちて多吉ぞわらひ軋るとき寅は溜りに倒れゐし 赤き毛布にくるまりて風くるごとに足小刻むは十にたらざる児らなれや 吹雪きたればあとなる児急…

宮沢賢治『丹藤川』

Jean-Francois chenier 火皿(ひざら)は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりと膝をそろへて座ってゐる。 その息子らがさっき音なく外の闇から帰ってきた。肩はばひろくけらを着て、…

『会計課』宮沢賢治

九時六分のかけ時計 その青じろき盤面(ダイアル)に にはかに雪の反射来て パンのかけらは床に落ち インクの雫かわきたり

宮沢賢治『風の又三郎』

ドゥ、と空が鳴った日に、風の少年がやってきた。赤毛に大きな目の山の神自在に風を操り小さな教室を騒がせた。転校生という不思議。子供が体験する異文化。『異邦人』との邂逅を、先生という優しい眼差しを通して、生き生きと描く。 photo matthew.wetherho…

宮沢賢治『いちょうの実』

そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼です。そして星がいっぱいです。けれども東の空はもうやさしいききょうの花びらのようにあやしい底光をはじめました。その明け方の空の下、ひるの鳥でもゆかない高いところをするど…