わが家の棟を超える、秋ちかい夜かぜのいちまいが、
なにか、息ながい囁きをゆりこぼしながら、
ゆつくり、隣の家へと、ふき移る。
ふるい家が、鷹揚に軋んで、
それに応らへしてゐるのが、聴きとれる。ふかい夜を。
この「ささやき」と「いらへ」の真下で、
思ひついたやうに、かたへの子の、寝ごとが、切なく、わたしをおどろかす。
――夜の夜中でもかぜが樹樹を囁かせ、かぜが家家を軋ませるやうに、
淡い子の夢が、切なく子を駆つて、なにごとかをいはせるのであらう。
なにを、子は夢みるのか。
子の蹴りすてた小夜着は、蚊帳の裾に波の起き伏しを、
真似て真似そこねる。
(一部編集あり)
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