ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『晩夏』高祖保

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わが家の棟を超える、秋ちかい夜かぜのいちまいが、

 

なにか、息ながい囁きをゆりこぼしながら、

 

ゆつくり、隣の家へと、ふき移る。

 

ふるい家が、鷹揚に軋んで、

 

それに応らへしてゐるのが、聴きとれる。ふかい夜を。

 

 

 

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jonathan.leung

 

 

 

この「ささやき」と「いらへ」の真下で、

 

思ひついたやうに、かたへの子の、寝ごとが、切なく、わたしをおどろかす。

 

 

――夜の夜中でもかぜが樹樹を囁かせ、かぜが家家を軋ませるやうに、

 

淡い子の夢が、切なく子を駆つて、なにごとかをいはせるのであらう。

 

 

なにを、子は夢みるのか。

 

子の蹴りすてた小夜着は、蚊帳の裾に波の起き伏しを、

 

真似て真似そこねる。

 

 

 

 

(一部編集あり)

 

 

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