ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『夏の町』永井荷風

枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、

 

 

昼も蚊の鳴く植込の蔭には、

 

 

七たびも色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。

 

 

梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと

 

 

誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。

 

 

そして炎暑の明るい寂寞が都会を占領する。

 

 
 
 
 
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写真 工藤隆蔵
 
 
 
 
 
かつては、都心が閑散とするこの時期は、逍遥のチャンスでした。
 
わが父は元気な頃、母を伴ってよく新宿や池袋に出かけました。
 
ふたつみつ噺を聞いて、二人で笑ったりゾッとしたり。
 
そして帰りに料理屋で奮発し、お腹も満たして上機嫌で帰りました。
 
 
 
ふたりの睦まじい夏は永遠に失われてしまったけれど、
 
永井先生の粋な文章を読んで、娘はふと思い出したのでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今週のお題「夏休み」
 
数年前に書いた記事ですが、
現在は五輪特需(?)で、観光客が盆暮れ関係なく押し寄せています。
こういった逍遥など夢のまた夢…、なのかもしれません。