ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『夏日小味』北大路魯山人

今週のお題「夏休み」

f:id:ookumaneko127:20190730070904j:plainJoi Ito






 夏の暑さがつづくと、たべものも時に変ったものが欲しくなる。私はそうした場合、よくこんなものをこしらえて、自分自身の食欲に一種の満足を与える。


 雪虎(ゆきとら)
――これはなんのことはない、揚げ豆腐を焼き、大根おろしで食べるのである。
その焼かれた揚げ豆腐に白い大根おろしのかけられた風情を「雪虎」と言ったまでのことである。
 これはまったく夏向きのもので、
まず生揚げを、餅網にかけて、べっこう様の焦げのつく程度に焼き、適宜に切り、新鮮な大根おろしをたくさん添え、いきなり醤油をかけて食う。
 

 錦木(にしきぎ)
――上等のかつおぶしを、せいぜい薄く削り、わさびのよいのをネトネトになるよう細かく密におろし、思いのほか、たくさんに添えて出す。で、これが食い方は、両方適宜に自分の皿に取り、ざんぐりと箸の先で混ぜて醤油を適量にかけ、それを炊きたての御飯の上に載せて、口に放り込めばよいのである。同時にアッと口も鼻も手で押えて、しばし口もきけないようなのが錦木の美味さである。

 白瓜の皮
――白瓜を賞味するのはこれから当分の間である。この白瓜を薄葛の汁椀なぞにつくる場合、大概はその皮を剥いて捨ててしまうものであるが、その捨ててしまう皮を食前一時間、糟味噌に漬けて、それで一番美味く漬けもの通になりすまそうというのである。
 パリパリと舌ざわりよく、色青くして、夏の夕餉には、それこそもってこいである。酒やビールの肴にも申し分ない。

 鰹中落ち味噌汁
――かつおの刺身をつくる場合、かつおを三枚におろすと、中の一枚はいわゆる中落ちである。この中落ちも大概は打ち捨てることが多いようだが、これを捨てないで、骨付きの残肉を、はまぐり貝かなにかでこそぎ取る。こそぎ取った肉が三とすれば味噌七ぐらいの割合でいっしょにしたものを、擂鉢(すりばち)でよくすり、裏漉しせずに通常の味噌汁を拵(こしら)えると同じ方法でこれを拵える。なべの味噌汁が最初に沸騰したとき、上に浮いたアクをすくい取り、直ぐに椀に盛って出す。この際、しょうがの絞り汁二、三滴落とせば、さらに妙である。中身には大根の千切りなどが調和するようである。
 
  白瓜の皮の浅漬けと言い、かつおの中落ちの味噌汁と言い、ともに食通をアッと言わすだけの立派な料理であるから、ご存じなき向きは、ゆめゆめ廃物利用だなんて薄っぺらな頭を持たないで、これこそ立派な意味ある料理だとの首肯から、ぜひとも試みてもらいたいものである。
 
 
 
 
 
 
編集あり
 
(ここで言う揚げ豆腐は厚揚げのこと)