ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

小説『Tree』

今週のお題「夏休み」

この夏の始め、庭の一本の木をめぐって家族がもめた。


庭の片隅にいつの間にか鳥が種子を運び、小さな若木が育ったかと思ったら、
あっという間に見上げるほどに成長した。

名もなき木。
今年はなぜか大量に花をつけ、それが真下に停めてある叔母の車に降り注いだ。
落としても落としても、毎朝ボンネットが真っ白になっている。
姑も叔母への気遣いから、何とかせねばと思ったらしい。
枝を払おうか、いっそのこと木を切ってしまおうか、と姑たちが話している。

そこへ何を思ったか、嫁がひどい剣幕でやってきた。

「聞き捨てならない!」

は木を切ることに断固反対した。

「この木一本あることで、木影が出来る。

水が貯蔵され涼しい。

温度差で空気が対流し、風が起こる」


なんだか、いつにも増して理屈っぽいに、辟易したように姑が言った。
 
「でもねえ、花だから、この匂い。
 
蜂までたかって危ないったら」

確かに独特のむっとする匂いがし、蜂がブンブン飛んでいる。
 
 
「それに」

は続けた。

「プロは決して生木を切らない。

アボリジニは木一本切る時でも、お伺いをたてる。

木は祟る」

この脅し文句が決め手となって、結局、木は切られることをまぬがれた。


この暑い夏。
毎日朝晩庭の草木に水をやるのが日課だ。
誰に言われるでもなくが自発的に始めたことだ。
しかし、特段ガーデニングが好きとか、庭作りに熱心な訳でもなく。
水のやり方も分からない。
バケツに水を一杯にし、ザンブリと勢い良くがさつにひっかけていた。
だんだんと木の根元の土が流れてしまい、マングローブのように
根が持ち上がって見えている。
水は土に吸収されず、ほとんどが流れ出てしまっていたが、嫁は気がつかず、
バケツザンブリをし続けた。
 
そんなある日、嫁は木の下にいてこんな声を聞いた気がした。
 

「もちっとていねいに飲ませておくれ」




 

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工藤隆蔵

 
 
 
太古の昔から生きている。

雲を起こし雨を降らせ自由自在に天候を創り、環境を整える。

化学物質を駆使し、生物を操り、時に進化を促す。



地球の外から訪れた旅人は、 彼らを、
この星の物言わぬ支配者だと思うかもしれない……。