ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである

今週のお題「雨の日の楽しみ方」

 

降るか照るか、私は曇日を最もきらふ。
 
どんよりと曇つていられると、頭は重く、手足はだるく
眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。
むろんなし事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。
 
 
それが静かにあたりを濡らして降り出して来た雨を見ると、
漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。
 
 
机に向ふもいゝし、寝ころんで新聞を繰りひろげるもよい。
何にせよ、安心して事に当られる。
 
 
 
 
 
 
雨を好むこゝろは確に むゐを愛するこゝろである。
 
 
為事の上に心の上に、何か企てのある時は
 
 
多く雨を忌んで晴を喜ぶ。
 

すべての企てに疲れたやうな心には
 
 
まつたく雨がなつかしい。
 
 
一つ/\降つて来るのを仰いでゐると、
 
 
いつか心はおだやかに凪いでゆく。
 
 
怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。
 
 
 
 
『なまけ者と雨』 若山牧水
 
 
 
 
 
 

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Kazuya Inoh