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『衣がへ』泉鏡花

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卯の花くだし新たに霽(は)れて、池の面(おも)の小濁(さゝにご)り
尚ほ遲櫻の影を宿し、椿の紅(くれなゐ )を流す。

日闌(た)けて眠き合歡(ねむ)の花の、 其の面影も澄み行けば、
庭の石燈籠に苔やゝ青うして、
野茨(のばら)に白き宵の月、カタ/\と音信(おとづ)るゝ 鼻唄の蛙もをかし。

(ひな)はさて都はもとより、 衣輕く戀は重く、褄淺く、袖輝き風薫つて、
緑の中の涼傘(ひがさ)の影、水にうつくしき翡翠の色かな。

浮草、藻の花。雲の行方は山なりや、海なりや、曇るかとすれば 
又眩(まばゆ)き太陽。






卯の花腐し 卯の花を腐らす意味から、卯の花が咲いているときに降る長雨。五月雨。

(ひな)はさて~… 
田舎はさておき都会では…軽やかな夏服になる。



泉鏡花『五月より』
鏡花の懐古趣味などから、五月とは旧暦、今でいう六月のことか。