ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『甘党風物詩』岸田國士

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Keith Davenport





日本でシユウ・クリイムと呼んでゐる菓子は、英国へ行つても仏蘭西へ行つてもその名前では通用しない。
英吉利(イギリス)でシユウ・クリイムを持つて来いと云つたら、靴墨を持つて来た
といふ落噺(おとしばなし)もできてゐるくらゐだ。
僕の判断では、この名前は恐らく、仏蘭西のシユウ・ア・ラ・クレエムから来てゐるのだらうと思ふ。
シユウは玉菜(たまな)のことだ。キヤベヂの形をしてゐるといふ意味だ。英語のクリイムは仏蘭西語でクレエム、
前置詞と冠詞は日本流に省いて、シユウ・クリイムといふ新しい言葉ができたわけである。
 日本では甘党辛党などゝ称し、酒好きと菓子好きとを対立させてゐるが、これはどうも理屈に合はぬらしい。
ババ・オオ・ロムの如く、酒入りの菓子があることはその不合理を証明してゐる。

 

『甘い話』岸田國士



ババ・オオ・ロム(ババ・オ・ラム)
ラム酒をたっぷりしみ込ませた焼き菓子。サバランのこと。