『夏の寂寥』若山牧水
柘榴の茂み檜葉の茂みを透いて、
紺の色の空が見えた。
浮雲ひとつ無い空だ、
めらめらと燃える樣にとも、
または、
死にゆく靜けさを持つたとも、
いづれとも云へる眞夏の空だ。
十本たらずの庭木の間に立つて、
ぼんやりとその空を仰ぎながら、
ぼんやりと呼吸(いき)する、
長い呼吸の間に混つて、
何とも云へぬ冷たい氣持が、
全身を浸して來るのを私は覺えた。
名も知れぬ誰やらが歌った、
土用なかばに秋風ぞ吹く、
といふあの一句の、
荒削りで微妙な、
丁度この頃の季節の持つ『時』の感じ、
あれがひいやりと私の血の中に湧いたのであつた。
土用(立秋)はとっくに終わってしまいましたが、
御霊を送る、今日この日に合う記事かと思いました。