夏休みの読書感想文
夏目漱石『門』 黎明の真の闇の中で
前期三部作『三四郎』『それから』『門』 読了。
物語は連綿と続く。
『三四郎』
大学入学のために上京した青年。親友や恩師、様々な人に出会い成長していく。
そして愛する女性が出来、想いを告げるが……。ほろ苦い青春物語。
『それから』
久方ぶりに再会した友人夫妻は、不幸な影を背負っていた。
かつて、当の主人公が、親友の妹をこの友人に勧め、二人を結婚させたのだ。
彼女を愛しているにも関わらず……。
『門』
よんどころない過去を持つ夫婦が、罪悪感の闇に怯えながらも、慎ましく、
お互いを思いやりながら暮らす話。
妻が、夜明け前の真の闇の中で、物音に怯え、夜明けを待つシーンがある。
真の暗闇に放り出されたことのある人ならば、
この気持ちが分かろうというものだ。
心細く情けなく、自分はこうも弱かったかと、思い知らされ、打ちのめされる。
しかし、彼女を救ったのは、神や仏ではなく、
常日頃わずらいの種であるところの、隣近所、世間の生活音そのものであった。
外の闇ではなく、内なる闇を抱え込むことは、難儀なことだ。
良かれ悪しかれ、外の世界の実存在が、黎明のひとすじの灯りとなって、
内なる闇を遠ざけたのだ。