ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

寺田寅彦 初嵐

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工藤隆蔵

 

 

夕方井戸水を汲んで頭を冷やして全身の汗を拭うと

 

 

藤棚の下に初嵐の起るのを感じる。

 

 

これは自分の最大の贅沢である。

 

 

 

 

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工藤隆蔵

 

 

夜は中庭の籐椅子に寝て星と雲の往来を眺めていると時々流星が飛ぶ。

 

 

雲が急いだり、立止まったり、消えるかと思うとまた現われる。

 

 

 

 

 

大きな蛾がいくつとなくとんで来て垣根のカラス瓜の花をせせる。

 

 

やはり夜の神秘な感じは夏の夜に尽きるようである。

 

 

 

 

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ASIM KUMAR CHAUDHURI



 

寺田寅彦 『夏』より(一部編集)