ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『春の夜は』芥川龍之介

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工藤隆蔵





僕はコンクリイトの建物の並んだ丸の内の裏通りを歩いてゐた。

すると何かにほひを感じた。何か、?――ではない。

野菜サラドの匂いである。

僕はあたりを見まはした。が、アスフアルトの往来には五味箱一つ見えなかつた。

それは又如何にも春の夜らしかつた。