ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである

降るか照るか、私は曇日を最もきらふ。

どんよりと曇つていられると、頭は重く、手足はだるく
眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。
むろんなし事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。


それが静かにあたりを濡らして降り出して来た雨を見ると、
漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。


机に向ふもいゝし、寝ころんで新聞を繰りひろげるもよい。
何にせよ、安心して事に当られる。






雨を好むこゝろは確に むゐを愛するこゝろである。


為事の上に心の上に、何か企てのある時は


多く雨を忌んで晴を喜ぶ。


すべての企てに疲れたやうな心には


まつたく雨がなつかしい。


一つ/\降つて来るのを仰いでゐると、


いつか心はおだやかに凪いでゆく。


怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。




なまけ者と雨 若山牧水






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写真 Kazuya Inoh