雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである
降るか照るか、私は曇日を最もきらふ。
どんよりと曇つていられると、頭は重く、手足はだるく
眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。
むろんなし事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。
それが静かにあたりを濡らして降り出して来た雨を見ると、
漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。
机に向ふもいゝし、寝ころんで新聞を繰りひろげるもよい。
何にせよ、安心して事に当られる。
為事の上に心の上に、何か企てのある時は
多く雨を忌んで晴を喜ぶ。
すべての企てに疲れたやうな心には
まつたく雨がなつかしい。
一つ/\降つて来るのを仰いでゐると、
いつか心はおだやかに凪いでゆく。
怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。
なまけ者と雨 若山牧水