餅菓子ひとつ手ぬぐい一本
「餅菓子ひとつ手ぬぐい一本」
最近の母(姑)の口癖だ。
「持ってこないとはどういうこと?!」
夏になる前から、ずっと空き地だった二件先に、
資材が運ばれ、人が集まり、作業が始まった。
毎日トンテンカンテンやっていたかと思ったら、
アッという間に、一軒家が建った。
「三階建てだよ、すごいね~」
自分の部屋の窓から覗いていた姑。
「どんな人だろうね」
「いい人だといいけど」
と興味津々。
やがてトラックが荷物を積んでやって来て
まる一日過ぎ
どうやら引越しも済んだらしい。
しかし、一週間、二週間たち、ひと月と過ぎても、
新しい住人は挨拶に来ない。
姑のイライラは募る。
「餅菓子ひとつ手ぬぐい一本持って挨拶に来るのがフツウだろう」
「あたしは、餅菓子が食いたくて言っているんじゃない」
「常識がないったら!」
「きっと家を建てたばかりで、お金がないんだよ」義父
「忙しくて後回しになっているんだろう」息子
「そんなわけがあるもんか!」
「今どきはもう、そういうことはしないのかも」嫁
燐家は我が家の駐車場の正面。車を出すたびイヤでも目に入る。
そしてまた、姑の怒りと嘆きの「餅菓子一つ~」が始まる。
「ああ、全くとんだ隣人だ」
「ヘンなひとに当たっちまった!」
「お母さん、じゃあ聞くけど、そっち隣のAさんはマトモな人ですか?」嫁
「いいや」
「向こう隣のYさんは?」
「ちっとも」
「ほうらね、みんなヘンじゃん」
「あはは。ホントだ」
見慣れている変な人か、初めて見る変な人かのちがい……?