小説『リッパな人』
二人の中年の女が道端でばったりと遭遇した。
「あら、お久しぶり」
そう言って、主婦Aはギョッとした。
イイトコのヒト(もう一人の女)は、多少迷惑そうにしながら、控えめな挨拶をした。
その姿は、主婦Aが知っているかつての姿とはかけ離れていた。
昔の華やかさがなくなった。
やつれた。
笑わない。
イイトコのヒトは、あまり話をしたがらず、そそくさとその場を後にした。
主婦Aは思った。
イイトコのヒト(もう一人の女)は、多少迷惑そうにしながら、控えめな挨拶をした。
その姿は、主婦Aが知っているかつての姿とはかけ離れていた。
昔の華やかさがなくなった。
やつれた。
笑わない。
イイトコのヒトは、あまり話をしたがらず、そそくさとその場を後にした。
主婦Aは思った。
「おかしいわね、あの人幸せなはず」
「ご主人はT大出のお医者様だもの」
「裕福で」
「お子さんがたくさんいて」
「良い大学に入って」
「しあわせなはず」
後日
主婦Aはあるものを見て呆然としていた。
勤め先の眼科で、前日分のカルテを整理しているときだ。
患者名には『イイトコのヒト』の名が書いてある。住所を確認したが、確かに山の手の住宅街、本人だ。
病名はドイツ語で読めない。そしてその視力を見てAは驚いた。
片目の視力がほとんどない。
事務員の女が、そのカルテを指差しながら辺りをはばかるように、声をひそめて言った。
主婦Aはあるものを見て呆然としていた。
勤め先の眼科で、前日分のカルテを整理しているときだ。
患者名には『イイトコのヒト』の名が書いてある。住所を確認したが、確かに山の手の住宅街、本人だ。
病名はドイツ語で読めない。そしてその視力を見てAは驚いた。
片目の視力がほとんどない。
事務員の女が、そのカルテを指差しながら辺りをはばかるように、声をひそめて言った。
「灰皿を目に?」
「……」
診察した医師は言ったそうだ。
「あなたが子どもなら、わたしたちには通報する義務があります」
「通報ってどこに?」
イイトコのヒトは心底驚き聞き返したそうだ。
「もちろん警察です」
医師の言葉に、イイトコのヒトは取り乱し。
「そんなこととは無縁です!」
「そんなこととは無縁です!」
「ちょっと手がすべったんです」
医師はため息をつき。
「眼底出血するほどの衝撃ですよ」
「レーザーで出血は止めましたが」
「下手すれば失明です」
「立派に暴力ですよ」
医師は腹立たしそうに言った。
「そんなワケありません!」
「夫はリッパなヒトです」
イイトコのヒトは懇願するように叫んだ。
( photo by まっくす )