ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

小説『目』

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「ああ、目が見えないよう。」

ある女性が嘆いている。

嫁が慰める。

「昨日は良く見えるって言っていたじゃない。」

「術語一ヶ月は安定しないって、手術の説明書にあったでしょ。」

姑は白内障の手術をしたばかり。

「痛いよ。痛いよ。今日はいたいよ。」

「ほんの小さくだけどメスを入れてあるからね。それも日が経つと、段々なくなるから。」

「でもそんなに痛いんなら、病院に連絡したら?」

「もう一日待ってみる。」


「今日はどう?」

「随分いいよ」


「今日はなに?」

「眩しいよう。」

「暗いよう。」

「瞳孔の調節が上手く出来ていないのかしら?」

「やっぱり病院に電話しなよ。」

「明日病院の予約日だから、我慢する。」

 
姑の目は、日によって良い悪いの格差が激しい。
ここに来て嫁は初めて『おかしいな……』と思った。

白内障の手術は、目のレンズの中の老化して固くなった核を、削って取り出し、
代わりに人工のものをはめ込むのだ。
だが、瞳孔の繊細な膜が、この術によって、影響を受けることがあるのだろうか?

病院の予約日に嫁も着いて行った。
検査に随分と時間がかかる。
細隙灯を覗いていた医師が、

「これはいかん。」

的なことを言った。

どうも後発(白内障)が起っているらしい。
おまけに術後の抗菌剤と抗炎症剤の点眼薬を処方されていなかった。
 
「どうりで痛いわけだ。」

「どうりで見えないわけだ。」

一年前のあの寒かった二月辺りから、姑は急に目が見えないと言い出した。
体調も良い時と悪い時の差が極端だ。
内科的には検査で問題が見つからなかった。そして眼科の検査を行なった結果、
眼底にシワが寄り、そのせいで見えにくいことが分かった。が、原因が分からない。眼注、レーザーとやったが、治らない。万策尽きて医師の決断が
白内障手術』だった。白内障が進んでいることは事実だったので、
これで少しでも見えるようになればと、期待したのだ。

一昨晩、姑が不調を訴え救急に運ばれた。
手足が勝手に揺れ出して止まらなくなったのだ。
 
 
 
 
(この物語はフィクションです)