ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

タクシー・ドライバー

日本人の心情としては複雑だが、

第二次大戦の帰還兵が、いかにアメリカ国内で英雄扱いされ、

尊敬され、生活を保障されていたか。

そんなことも、この映画以前に背景としてあるだろう。

主人公の男はベトナム帰還兵。

尊敬されることも、英雄視されることも、生活を保障されることもない。

対する女は、政治の世界のヒロイズムに憧れている。

男はなんとか、自分という人物の、高潔性を、

いかに尊敬されるに足る人物であるかを証明せねばならない。それに奔走する。

立派な女をデートに誘ってみたり、

寂しさから堕落した少女を、説得してみたり、

しかしどれも上手くいかない。

男の中で『高潔生』が『英雄的行い』に簡単にすり替わる。

両者は似て非なるものだ。

政治家暗殺を企てる。しかし頓挫する。

振り上げた刀を、売春宿におろす。

たまたま、男の英雄的行いは社会悪に向けられたため、

男は真の勇者として、社会に受け入れられる。

この映画は一人の人間の中の、

悪魔的行いと神的行いが、簡単にすり替わり得るということを示唆しているように思う。

高潔な魂は肉である人に宿るがゆえ、また、墜ちやすいという危険性をはらんでいるのだ。

戦場ではなく、大都会の日常という混沌の中でも。


(監督 マーティン・スコセッシ  男 ロバート・デニーロ  女 シビル・シェパード 少女 ジョディ・フォスター