ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

バックパッカーと首の皮一枚の私たち 六

いい人なんだか悪い人なんだか分からないまま、夫が一人の白タク運ちゃんを選び、というよりは強引に選ばれ、
私たちは深夜暗闇の中を、これまたどえらいスピードで疾走する車中の人となった。
私の不安モードはほぼ全開。

谷川岳の熊でも、ここまで怖くはなかった。』

やっぱり、『あらゆる動物の中で人間が一番コワい。』

これは山登りたちの名言だが。

(最も恐れるべきは、外にいる人というよりは、自分の中から湧き出る猜疑心や、不安や、恐怖や、怒りだ。
しかし、それを引き起させる要因は、やはり人。)

不安に耐えられなくなり、私は言葉を理解されないのをいいことに、夫に切り出した。

「猫二、この人はホントーにふつうの運転手なの?」

自分たちは地獄ではなく、ちゃんとホテルに送り届けられるのだろうか?

「わかんねえ。」

「なんでこの人を選んだの?」

もっと、キチンと選ばなくてならなかったのでは?
家族の運命を、カンタンに託してよかったのか?
自分こそ何もしないでビビっていたくせに、私は夫を責めるような口調でえらそうに言った。
実際、怒った顔の白タクたちに囲まれ、タイ語でまくしたてられれば、
アタマはまっ白、日本でのみ通用している判断力など吹き飛ぶ。

マラッカ海峡の海賊。」

夫が言った。

「ええっ?」

「みんなそんな顔。」

「その中で、一番温和そうな海賊を選んだ。」


(本文中のシツレイな表現をお許し下さい。I love Thailand.)