鎌倉日記 白昼現れた佐助の牝ギツネ 3
緑の濃い急な坂を登り、
私はようやく銭洗弁天の入り口へとたどり着いた。
ゼイゼイと息が上がっている。
気味の悪い真っ暗なトンネルに入る頃には、
呼吸困難一歩手前の状態で、なかなか息が整わない。
おまけに白昼の強い日光を嫌い、縮瞳しきっていた瞳が、
いきなり暗闇にさらされ、光を採り入れようと散瞳した。
しかし、いつものように上手く機能しない。
目を開けているのに、全く何も見えない。
トンネルの深部は、真の闇だ。
そんな時、
誰かがしゃべっている声が、ボ~ッとした頭の片隅に響いた。
「このトンネルは産まれる時の通り道」
Kazuya Inoh
突然明るい光の中に出た。
私はロウソクを供え、押し寄せる中学生の群れの隅っこに滑り込み、
なんとか、悲願の万札を洗うことが出来た。
後日、母に銭洗い弁天の由来を説明しながら渡した。
「お金を洗うと増えるという民間信仰。
小銭を洗いがちだが、
抜かりなく万札を洗わねばならない旨…」
そうすると、驚いたことに、
母は笑顔を見せた。
父の死後何日も見せたことのなかった、パッと華やいだ笑顔を。
曇った梅雨空のもとに、密やかに咲く花のような。
工藤隆蔵