鎌倉日記 白昼現れた佐助の牝ギツネ 2
しかし、
行けども行けども、銭洗弁天に一向にたどり着かない。
『銭洗い……』の看板すら全く見なくなってしまった。
不安になった私は、通りがかりの人に声を掛けた。
「あの……、銭洗弁天はどこでしょう?」
現世利益ギットリの女と思われるかな、まあいいか、母のためだ。
と、内心恥じる気持ちと、言い訳とを同居させながら。
見ればゴルフ帰りの、三人連れのおじ様方。
そのうちの一人が、懇切丁寧に教えてくれた。
それにしても、何だかおじ様ニコニコしながら嬉しそうだ。
しかし、あとの二人はなぜか、遠巻きにしている。
しかも、距離を置き、私のことをうさん臭気に見ている。
ていねいで親切なおじ様に礼を言い、私はまたもや分かりづらい道を歩き始めた。
歩き始めてすぐに、周りが佐助稲荷の看板だらけであることに気が付いた。
私のその日のいでたちといえば、白い長袖のカットソーにサングラス。白い日傘…。
野生動物のような、くせっ毛でごわごわの濃いロングヘア。
白昼の日差しが降り注ぐ、人っ子一人いない寂しい住宅街。
さぞや得体の知れない、不可思議な生き物に見えたことであろう?
察するに、あの三人のおじ様方の一人、親切な、好きそうなお方は、
狐の術中にはまる愛すべきキャラで、
あとの二人は、牝ギツネの妖術に騙されないタイプというわけだ。
photo ふにふに