ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

島崎藤村『雪が来た』

この雪が来た晩の静かさ、戸の外はひっそりとして音一つしなかった。

あれは降り積もるものに潜む静かさで、ただの静かさでもなかった。

いきぐるしいほど乾き切ったこの町中へ生気をそそぎ入れるような静かさであった。

にわかに北の障子も明るい。雪が来て部屋々々の隅にある暗さを追い出したかのよう。

こんなものが降ったというだけでも、何がなしにうれしいところを見ると、

いくつになってもわたしなぞはまだ雪の子供だと見える。


降ったばかりの雪は冷たいようで、実は暖かい。それを踏めば歓びが湧く。




(『雪の障子』島崎藤村 編集あり)







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工藤隆蔵







朝9時過ぎごろ、
海沿いのこの地域でも牡丹雪が降り始めました。