芥川龍之介『春』
芥川龍之介、未完の小品。
かねてより『猿』と揶揄していた男と、結婚すると言いだした妹。
姉は本意を知るべく、当の『猿』に会いに行く。
『妹は一体あなたのどこが良くて結婚するというのかしら?』
物語は、博物館の中を姉と猿が歩き周り、姉は情報を引き出そうとしながらも、
それが容易には出来ずににいるところで終わっている。
この物語は、当の筆者の体験談のように思えます。
芥川自身が結婚する前に、未来の妻の姉から値踏みされた経験があるのではないでしょうか?
そのことを、面白おかしく、時に皮肉に描いて見せている。
当時は、良家の子女は『縁談』で結婚するのが習わしだったことを鑑みれば、つまりは『春』という題名は、愛の季節、繁殖の季節、『恋愛』というものを意味している。
当時は、良家の子女は『縁談』で結婚するのが習わしだったことを鑑みれば、つまりは『春』という題名は、愛の季節、繁殖の季節、『恋愛』というものを意味している。
それも当人たちの視点ではなく、情緒を解さない姉の目線で描き、
『春』『恋の季節』の到来を、『摩訶不思議』なものとして、
浮き彫りにしているのではないでしょうか?
ちなみに未完のその続きですが、
『姉にはついぞ理解出来ずに、博物館の出口で猿と分かれる』
という結末が相応しいように思われます。
つまり、想像力のない人には、恋を理解することは難しいでしょうね。
photo by Jeff Kubina