ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

小説『ブラジルのおばちゃん』2 わたしの母

教室の戸が開いて、一人の婦人が入って来た。

担任にあれほど注意されているのに、みんな一斉にそちらを振り返る。
ここまではどの親が入って来てもそうなのだが……、ここからが違った。
子どもたちはみな一様にざわめき、授業がしばし中断された。
 
「だれのお母さん?」

「きれいだな。」

「わたしの。」

みんな一斉に私を見る。
そしていぶかしげな顔をする。

『似てねーぞ。』
 
お腹の中でそう思うのだ。
これは小学校の間中くり返された、授業参観の光景だ。
母は、いつも家では割烹着を着て、色気もへったくれもない田舎のお母さんなのだが、こうして、学校に来る時には、見たことのないブラウスを着て、タイトスカートを身に着け、お化粧をし、髪を整えてやって来る。そして、また今回も、同級生たちの話題になる。
 
「美人コンテスト一位」

私は父親似なので、同級生たちの落胆は想像するに固くない。
ざわめきはなかなか収まらない。

 
「静かにして下さい!」
 
学級委員の雅ちゃんが張りのある声で叫んだ。
そして、私のほうを睨んだ。

『ちいちゃんが悪い!』

そう顔に書いてある。いつものことだ。
私は何かと彼女に敵視されていた。
 
 
 
(ブラジルのおばちゃん 2)