ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

小説『ブラジルのおばちゃん』4 いじわる

「決められた下校路を通って帰りましょう。」

担任も厳しい顔で私を見ている。
当時、日本で初めて、子どもがらみの忌まわしい事件が起きた。
親や教育関係者が過敏になり始めた矢先のことだった。
雅ちゃんが「それ見たことか」と、勢いづいて続ける。

「ちいちゃんは決まりを守らない。」

私の極悪非道ぶりを暴き立てた。

「この間はお掃除をサボった。」

「体育の授業中ずる休みして、落書きしてた。」

「給食当番を忘れた。」

私は同級生たちに乞われて、わざわざ遠回りで下校していたのに。
なんだってこう、何もかも、暴き立てられなくてはならないのか?
私を弁護する同級生は一人もいない。
私を取り巻いていた者もみな、関係ないという顔をしている。
雅ちゃんの剣幕が怖いのだ。
休み時間の鐘が鳴ったが、まだ、先生のお説教は続いている。

「お前のせいで休み時間が減る。」

意地悪な男の子が私の腕をギュッとつねった。

「うわ~ん。」

私はたまらず泣きだした。
涙が後から後からポロポロとこぼれ、休み時間の間中グスグスと泣いていた。


この時は、なぜ、優等生の雅ちゃんが、ここまで私を憎むのかがよく分からなかった。
ましてや、
私の母と、ブラジルのおばちゃんと、そしてこの雅ちゃんとが、関係があろうなどとは、想像だにしていなかったのだ。