ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

佐藤春夫『冬の日の幻想』

 
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Lamorgans

 
 
 
霜ぐもる十二月の空は

干ものやくにほひにむせび

豆腐やのちゃるめら聞けば

火を吹いておこすこの男の目に ふと

どこかの 見たこともない田舎町の場末の

古道具屋の四十女房がその孕(はら)みすがたで

釣ランプをともすのだ

かかるゆふべの積み累(かさ)ねに

聖(ひじり)ならぬわが厭離のこころはきざした。
 
 
(大正十一年十二月)