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言葉を味わう 文学の楽しみ

『行倒の商売』三遊亭円朝

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Miles Bader




是れは当今(たうこん)では出来ませぬが、
昔時(むかし)は行倒(ゆきだふ)れを商売にしてゐた者があります。
無闇(むやみ)に家(うち)の前へ打倒(ぶつた)ふれるから

「まアおまへ何所(どこ)かへ行つてくれ。

乞「何どうもわたくしは腹が空つて歩かれませぬ、
其のうへ塩梅(あんばい)が悪うございまして。

と云ふから仕方なしに握飯(むすび)の二つに銭(ぜに)の百か二百遣ると
当人(たうにん)は喜んでその場を立退くといふ。是れが商売になつてゐました。


ある時此奴(こいつ)が自分の日記帳を落とした。
夫れを拾つて読んで見ると、

『一番ばん町にて倒候(たふれさふらふ)節(せつ)は、六尺棒ぼうにて追払はれ、
握飯ふたつ、番茶一杯。
一翌日牛込改代町(うしごめかいたいちやう)へ倒ふれ候ふ節は、銭一貫文、海苔鮨三本、
夫より午過(ひるすぎ)下谷上野町(したやうへのまち)へ倒ふれ候らふ節は
たゞお灸。



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