『茶』室生犀星
Christian Kaden
父はなれた手つきで茶筅(ちゃせん)を執ると、南蛮渡りだという重いうつわものの中を、静かにしかも細緻な顫(ふる)いをもって、かなり力強く、巧みに掻き立てるのであった。みるみるうちに濃い緑の液体は、真砂子(まさご)のような最微な純白な泡沫となって、しかも軽いところのない適度の重さを湛えて、芳醇な高い気品をこめた香気を私どものあたまに沁み込ませるのであった。
私はそのころ、習慣になったせいもあったが、その濃い重い液体を静かに愛服するというまでではなかったが、妙ににがみに甘さの交わったこの飲料が好きであった。じっと舌のうえに置くようにして味うと、父がいつも言うように、何となく落ちついたものが精神に加わってゆくようになって、心がいつも鎮まるのであった。
『性に眼覚める頃』室生犀星