ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

鎌倉日記 白昼現れた佐助の牝ギツネ 三

緑の濃い急な坂を登り、

私はようやく銭洗弁天の入り口へとたどり着いた。

ゼイゼイと息が上がっている。

気味の悪い真っ暗なトンネルに入る頃には、

呼吸困難一歩手前の状態で、なかなか息が整わない。


おまけに、縮瞳し、白昼の強い日光を拒絶していた瞳が、

いきなり暗闇にさらされ、光を集めようにも上手く機能しない。





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photo Kazuya Inoh





トンネルの深部は、全く何も見えない。

視覚と呼吸器には、何か関わりがあるようだ。

真っ暗闇では、息がそれでなくともしづらいような感覚がある。


そんな時

誰かがしゃべっている声が、ボ~ッとした頭の片隅に響いた。


「このトンネルは産まれる時の通り道」




突然明るい光の中に出た。


私はロウソクを供え、押し寄せる中学生の群れの隅っこに滑り込み、

なんとか、悲願の万札を洗うことが出来た。



後日、母に銭洗い弁天の由来とともに渡すと、

父の死後見せたことのない、パッと華やいだ笑顔を見せた。

曇った梅雨空のもとに、密やかに咲く花のような。





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写真 工藤隆蔵




過去記事の再掲載です。


鎌倉日記白昼現れた佐助の牝ギツネ 一 http://blogs.yahoo.co.jp/ookumaneko62/61596158.html
鎌倉日記白昼現れた佐助の牝ギツネ 二 http://blogs.yahoo.co.jp/ookumaneko62/61610532.html