小説『夜の踊り』
寺田寅彦『難破船遊び』
続きの創作小説
次の日から、何も変わることはなかったが、
朝食に異変が起きた。
朝食に異変が起きた。
David McKelbey
普段は塩味の麺麭(パン)に、珈琲が私たちの朝の食事の全てだ。
が、その朝は甘く煮詰めた林檎が皿に乗った。
次の日には、梨の白葡萄酒煮がやはり食卓に添えてあった。
次の日には、梨の白葡萄酒煮がやはり食卓に添えてあった。
私は同席者に指摘され、初めてそれが私だけに供された物だと知った。
給仕に聞くと自家製だと言う。
給仕に聞くと自家製だと言う。
その何がしかの添え物(ケルクショーズ)は幾日か続いた。
さすがに他の下宿人の目も気になり出した。
私は厨房に行き、コックに止めてくれる様に言った。
コックは過日私が花を捧げた老寡婦であった。
彼女は意外そうな顔をした。
「あなた痩せすぎよ」
「でもどうして僕にだけ」
「あの晩夢を見たの」
「一晩中踊ったの」
「僕とですか?」
「いいえ、彼とよ」
「出征前の夜。婚約者と」
「久しぶりに夢に出てきてくれたの」
「あなたのおかげよ」
と、少女のような華やいだ笑顔を見せた。
私は良いことをしたのか、悪いことをしたのか。
何か決まりが悪かった。
私は厨房に行き、コックに止めてくれる様に言った。
コックは過日私が花を捧げた老寡婦であった。
彼女は意外そうな顔をした。
「あなた痩せすぎよ」
「でもどうして僕にだけ」
「あの晩夢を見たの」
「一晩中踊ったの」
「僕とですか?」
「いいえ、彼とよ」
「出征前の夜。婚約者と」
「久しぶりに夢に出てきてくれたの」
「あなたのおかげよ」
と、少女のような華やいだ笑顔を見せた。
私は良いことをしたのか、悪いことをしたのか。
何か決まりが悪かった。