織田作之助『金木犀』
ある夜、暗い道を自分の淋しい下駄の音をききながら、歩いていると、
いきなり暗がりに木犀の匂いが閃いた。
いきなり暗がりに木犀の匂いが閃いた。
私はなんということもなしに胸を温めた。雨あがりの道だった。
二、三日してアパートの部屋に、金木犀の一枝を生けて置いた。
その匂いが私の孤独をなぐさめた。私は匂いの逃げるのを恐れて、
二、三日してアパートの部屋に、金木犀の一枝を生けて置いた。
その匂いが私の孤独をなぐさめた。私は匂いの逃げるのを恐れて、
カーテンを閉めた。
しかし、その隙間から、肌寒い風が忍び込んで来た。
しかし、その隙間から、肌寒い風が忍び込んで来た。