ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『恋』宮沢賢治

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Andy Simonds




草穂のかなた雲ひくき

 

ポプラの群にかこまれて

 

鐘塔白き秋の館

 

 

かしこにひとの四年居て

 

あるとき清くわらひける

 

そのこといとゞくるほしき








 
 
 
 
 今週のお題「秋の空気」
 
 
 
 
 
 
 
 

萩原朔太郎『殺人事件』

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                    jeronimoooooooo



 

 

 

 

とほい空でぴすとるが鳴る。

 

またぴすとるが鳴る。

 

ああ私の探偵はガラスの衣裳をきて、

 

こひびとの窓からしのびこむ、

 

床は水晶、

 

ゆびとゆびとのあひだから、

 

まつさをの血がながれてゐる、

 

かなしい女の屍体のうへで、

 

つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。

 

 

 

しもつきはじめのある朝、

 

探偵はガラスの衣裳をきて、

 

街の十字巷路(よつつじ)を曲つた。

 

十字巷路に秋のふんすゐ、

 

はやひとり探偵はうれひをかんず。

 

 

 

みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、

 

曲者(くせもの)はいつさんにすべつてゆく。

 

 

 

 

 

萩原朔太郎『月に吠える』 編集あり)

 

 

 

 

 

禍々しくゆきましょう。秋ですものね

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

『ジキル博士とハイド氏』

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『人間は完全かつ本源的に二重性格のものであることを悟った…

 

自分が相争っている二つの性質のどちらかであると誤りなく言えるとしても、

 

それはもともとわたしがその二つを兼ね備えているからにすぎない』

 

ヘンリー・ジキルの陳述書より 

 

 

 

 
 
 
 
 

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原作は言わずと知れたスティーヴンソンの怪奇小説です。
 
 
待ち合わせ時間に早すぎ、時間つぶしに買った短編。
 
しかし、読んでみて驚きました。
 
ストーリーのエキセントリックさとは裏腹に、非常に名文です。
 
二十世紀中おそらく二十指に入る名文で認められた、傑作です。
 
 
 
 Halloween inspired
 
 
 
 
 

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バッハ トッカータとフーガ ニ短調 オルガン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『セレナーデ 恋歌』宮沢賢治

今週のお題「秋の空気」

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江釣子(えづりこ)森の右肩に

 

雪ぞあやしくひらめけど

 

きみはいまさず

 

ルナの君は見えまさず

 

 

夜をつまれし枕木黒く

 

群あちこちに安けれど

 

きみはいまさず

 

 

とゞろにしばし行きかへど

 

きみはいまさず

 

ポイントの灯はけむれども

 

ルナのきみの影はなき

 

 

あゝきみにびしひかりもて

 

わが青じろき額を射ば

 

わが悩あるは癒えなんに

 

 

 

 

 

江釣子 岩手県にかつてあった場所。現北上市

 

ルナ 月の女神

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

 

『秋の日は、干物の匂ひがするよ』中原中也

今週のお題「秋の空気」

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外苑の鋪道しろじろ、うちつづき、

 

千駄ヶ谷 森の梢のちろちろと

 

空を透かせて、われわれを

 

視守る 如し。

 

 

秋の日は、干物の匂ひがするよ

 

 

干物の、匂ひを嗅いで、うとうとと

 

秋蝉の鳴く声聞いて、われ睡むる

 

人の世の、もの事すべて患づらはし

 

匂を嗅いで睡ります、ひとびとよ、

 

 

秋の日は、干物の匂ひがするよ

 

 

 

 

 

 

『干物』

 

中原中也

 

 

 

 

 

photo mrhayata

 

 

 

 

 

 

 

 

夏目漱石『野分』2

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Jiuguang Wang
 
 
 
 
 

裕福な友人に誘われ、しぶしぶ出向いた音楽会。

きらびやかな雰囲気、華やかな人々の服装、

どちらも貧しい高柳君には馴染みのないものだ。

 

 

 

「三度目の拍手が、断わりもなくまた起る。

隣りの友達は人一倍けたたましい敲(たた)き方をする。

無人の境におった一人坊っちが急に、

霰(あられ)のごとき拍手のなかに包囲された一人坊っちとなる。

 

 
 
 
 
 
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ゆんフリー
 
 
 
 

演奏は喝采のどよめきの静まらぬうちにまた始まる。聴衆はとっさの際にことごとく死んでしまう。高柳君はまた自由になった。何だか広い原にただ一人立って、遥かの向うから熟柿(じゅくし)のような色の暖かい太陽が、のっと上ってくる心持ちがする。

 

小供のうちはこんな感じがよくあった。今はなぜこう窮屈になったろう。

右を見ても左を見ても人は我を 擯斥(ひんせき)しているように見える。

たった一人の友達さえ 肝心のところで 無残の手をぱちぱち 敲く」

 

 

 

 

 

野分:秋から初冬にかけて吹く、主として台風による暴風のことで、「のわけ」ともいう。