ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『セレナーデ 恋歌』宮沢賢治

今週のお題「秋の空気」

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江釣子(えづりこ)森の右肩に

 

雪ぞあやしくひらめけど

 

きみはいまさず

 

ルナの君は見えまさず

 

 

夜をつまれし枕木黒く

 

群あちこちに安けれど

 

きみはいまさず

 

 

とゞろにしばし行きかへど

 

きみはいまさず

 

ポイントの灯はけむれども

 

ルナのきみの影はなき

 

 

あゝきみにびしひかりもて

 

わが青じろき額を射ば

 

わが悩あるは癒えなんに

 

 

 

 

 

江釣子 岩手県にかつてあった場所。現北上市

 

ルナ 月の女神

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

 

『秋の日は、干物の匂ひがするよ』中原中也

今週のお題「秋の空気」

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外苑の鋪道しろじろ、うちつづき、

 

千駄ヶ谷 森の梢のちろちろと

 

空を透かせて、われわれを

 

視守る 如し。

 

 

秋の日は、干物の匂ひがするよ

 

 

干物の、匂ひを嗅いで、うとうとと

 

秋蝉の鳴く声聞いて、われ睡むる

 

人の世の、もの事すべて患づらはし

 

匂を嗅いで睡ります、ひとびとよ、

 

 

秋の日は、干物の匂ひがするよ

 

 

 

 

 

 

『干物』

 

中原中也

 

 

 

 

 

photo mrhayata

 

 

 

 

 

 

 

 

夏目漱石『野分』2

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Jiuguang Wang
 
 
 
 
 

裕福な友人に誘われ、しぶしぶ出向いた音楽会。

きらびやかな雰囲気、華やかな人々の服装、

どちらも貧しい高柳君には馴染みのないものだ。

 

 

 

「三度目の拍手が、断わりもなくまた起る。

隣りの友達は人一倍けたたましい敲(たた)き方をする。

無人の境におった一人坊っちが急に、

霰(あられ)のごとき拍手のなかに包囲された一人坊っちとなる。

 

 
 
 
 
 
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ゆんフリー
 
 
 
 

演奏は喝采のどよめきの静まらぬうちにまた始まる。聴衆はとっさの際にことごとく死んでしまう。高柳君はまた自由になった。何だか広い原にただ一人立って、遥かの向うから熟柿(じゅくし)のような色の暖かい太陽が、のっと上ってくる心持ちがする。

 

小供のうちはこんな感じがよくあった。今はなぜこう窮屈になったろう。

右を見ても左を見ても人は我を 擯斥(ひんせき)しているように見える。

たった一人の友達さえ 肝心のところで 無残の手をぱちぱち 敲く」

 

 

 

 

 

野分:秋から初冬にかけて吹く、主として台風による暴風のことで、「のわけ」ともいう。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

夏目漱石『野分』

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「近頃は喜劇の面(めん)をどこかへ遺失(おと)してしまった」

 

 

「…何だか不景気な顔をしているね。どうかしたかい」

 

 

と友人に問われて。

 

 

「また新橋の先まで探しに行って、拳突(けんつく)を喰ったんじゃないか。

つまらない」

 

「新橋どころか、世界中探してあるいても落ちていそうもない。

もう、やめだ」

 
 
 
 


野分:秋から初冬にかけて吹く、主として台風による暴風のことで、「のわけ」ともいう。
 

 

 

 

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ハチャトゥリアン 組曲「仮面舞踏会」










縄などはとうの昔に切れており

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photo  Ines Njers
 
 
 
 
 
 
 

夫婦岩を結ぶ大しめ縄が台風で切れる。    2014.10.6

 

 

 

 

 

 

また大きな台風がやってきますね。

ベランダのすだれを外して、

植木鉢を下に移動させて、物干し竿を仕舞って。

あとなにかしておくことを探さねば…。

 

風速25mって、色んなもの破壊して余りあるパワーですね。きっと。

台風の通り道にお住まいの皆さま、十分にお気をつけください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤春夫『秋刀魚の歌』

 

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あはれ

秋風よ

情(こころ)あらば伝へてよ

――男ありて

今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり

さんまを食(くら)ひて

思ひにふける と。

 

さんま、さんま

そが上に青き蜜柑(みかん)の酸(す)をしたたらせて

さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。

そのならひをあやしみなつかしみて女は

いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。

 

 

あはれ

秋風よ

情(こころ)あらば伝へてよ

夫を失はざりし妻と

父を失はざりし幼児とに伝へてよ

――男ありて

今日の夕餉に ひとり

さんまを食ひて

涙をながす と。

 

さんま、さんま、

さんま苦いか塩つぱいか。

そが上に熱き涙をしたたらせて

さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。

あはれ

げにそは問はまほしくをかし。