ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『蓮を描いて泥を識る』

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ansel.ma
 




 《泥中の蓮……この泥も現実だ。そして蓮もやはり現実なんです、
そして泥は汚いけれど蓮は美しい、だけどこの蓮もやはり根は泥中にある……
私はこの場合、泥土と蓮の根を描いて蓮を表す方法もあると思います、
しかし逆にいって蓮を描いて泥土と根をしらせる方法もあると思うんです。
戦後の世相はそりゃ不浄だ、ゴタゴタしている、汚い、こんなものは私は嫌いです、
だけどそれも現実だ、それと共につつましく、美しく、
そして潔らかに咲いている生命もあるんです。これだって現実だ、
この両方ともを眺めて行かねば作家とはいえないでしょう、
だがその描き方に二通りあると思う、さき程いった泥中の蓮の例えで……》


『晩春』に於ける社会性の乏しさを批難された事への反論 小津安二郎
『アサヒ芸能新聞』1949年11月8日号 “泥中の蓮を描きたい”