ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『冬』リルケ

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Roman Boed





 ……むかしの冬の方が私は好きだ。
人は冬を少し怖がつてゐた、それほど冬は猛烈で手きびしかつた。
人はわが家に歸るために、いささか勇氣を奮つて、冬を冒して行つたものだ。

さうして私たちの冬の慰めとなつてゐた、
すばらしい焚火は、力づよく活氣のある焚火、本當の焚火だつた。

人は書きわづらつた、すつかり指がかじかんでしまつたので。
けれども、助力し合つて、夢みたり、
失せやすい思ひ出をすこしでも引きとどめたりすることの、
何といふよろこび……
思ひ出はすぐそばにやつて來て、
夏の時よりかずつとよくそれが見られたものだ。




堀辰雄 訳 編集あり)