2017-06-16 『父ありき』小津安二郎 小津安二郎 二次創作 Andrea Schaffer 四月四日密葬 砂町火葬場に行く父の世にあるもの一握の灰なり本通夜 〈メモ〉高野山の南院の庭先には今をさかりに牡丹が咲いてゐた半ばを過ぎた紀の国の五月の山山には ところどころ色褪せた八重桜がのこってゐて 新緑未だ来らず 夕陽まことに遥けく 藤波は紫雲の如く西方に漂ひ 椎の木の下かげはまことに暗い 夕暮れ近く奥の院について寂として声なきあたりにからころと親爺の骨を納骨堂の小さい扉からころがしたこれで親爺も片がついた思へば永い親爺の一生であり限りなくしゃぶりつくした脛でもあった五月二十五日 『小津安二郎全日記』より