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言葉を味わう 文学の楽しみ

『小金井の櫻』大町桂月 一

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Raymond Ling




見渡す上流は、幾重の香雲、ふりかへる下流も亦幾重の香雲。

人はその香雲堆裏をたどりゆく。
上水の兩岸、みな櫻、幹古りて大に、その小なる者も合抱に下らず。
たけ高く、枝しげり、清く碧なる一帶の水を夾むで、相合せむとして合せず、
美人紅袖をかざして相倚(よ)らむとするものの如し。
誰か言ふ、流水の幅せまきに過ぐと、
せまきが故に、兩岸の櫻相抱かむとする奇觀あるにあらずや。
げに限りも知らぬ花の隧道、下ゆく水に映じて、上下みな花、
堤の上には、青草氈を敷き、紅なるぼけの花さきつゞきて、
一種の花紋を添へ、見上げ見下すながめ、目もあやに、幾んど、應接に遑(いとま)あらず。








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江戸時代、多摩川から取水し江戸市中四谷まで40キロの距離を建設された水路。
工事には莫大な資金と技術力人力が必要であったと想像される。
完成した貴重な浄水を守るため、幕命で河岸に2000本の桜が植えられた。
その桜が小金井の桜として名所となった。