バックパッカーと首の皮一枚の私たち 七
拠り所はなに一つない暗闇の高速道路。
車は疾走し続けた。
私はいつしか、なるようになれと思い始めていた。
頭が思考を止めた。
道路は、(わたしたちを殺すための)山奥やジャングルではなく、
まだ黎明に眠る大都会の深部へと向かっているようだった。
ふと、高速道路わきに、見慣れたものが目に入ってきた。
『ヤ○ルト・家族の健康を守る乳酸菌飲料』(とタイ語で書いてあったかどうか)
の巨大看板。
おなじみのあの形の入れ物のハリボテ。
バカバカしい大きさ。
白々しい笑顔の家族の絵。
わたしはこの笑っちゃうような看板に、意外なことに大きな安堵を覚えた。
『ヤ○ルトを飲む国民性なら大丈夫だ。』
なんだか理屈にもならないリクツで妙に納得した。
もちろん中国、香港にもれっきとしてヤ○ルトは普及している。
ご当地物のような顔をして、コンビニやスーパーの棚に必ず鎮座している。
ヤ○ルト様様だ。
一企業努力に対して、初めて一人の(胃弱な)日本人として感謝の念を覚えた。
『胃腸を気遣う小市民、愛すべきアジア人。』
『この国はダイジョウブだ。』