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『刺客蚊公之墓碑銘』正岡子規

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K  yamada






田舎の蚊々、汝(なんじ)竹藪の奥に生れて、その親も知らず、
昼は雪隠(せっちん)にひそみて伏兵となり、
夜は臥床(がしょう)をくぐりて刺客となる、
咄(と)つ汝の一身は総てこれ罪なり、
人の血を吸ふは殺生罪なり、
蚊帳の穴をくぐるは偸盗(ちゅうとう)罪なり、
耳のほとりにむらがりて、雷声をなすは妄語罪なり、
酒の香をしたふて酔ふことを知らざるは、飲酒罪なり、
汝五逆の罪を犯してなほ生を人界にぬすむは、そもそも何の心ぞ、
あくまで血にふくれて、腹のさくるは自業自得(じごうじとく)なり、
子をさして母をこまらせ親を苦しめて子をなかせたる罪の、
今忽(たちま)ち報ひ来て我手の先に斃(たお)れたり、
悟れや汝生きて桓公(かんこう)の血に罪を作らんよりは、
死して文人の手に葬らるるにしかず、
丈草(じょうそう)かつて汝が先祖を引導す、

我また汝を柩(ひつぎ)におさめて東方十万億土花の都の俳人によするものなり、
何の恨みか存ぜん喝(かつ)。


念仏のとぎれけり蚊をたたく声






桓公
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%93%E5%85%AC_(%E6%96%89)

桓公が弓矢で暗殺されかかった故事から。
桓公を殺すより(人を刺して血を吸うより)文人(わたし)に打たれる方が良かろう』



丈草(じょうそう)かつて汝が先祖を引導す

内藤丈草の俳句に蚊を歌ったものがあるという意味かと思いますが、
確認できませんでした。






『刺客蚊公之墓碑銘』

柩に収めて東都の俳人に送る

正岡子規