ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

樋口一葉『月かげ』

むら雲すこし有るもよし、無きもよし、

みがき立てたるやうの月のかげに尺八の(ね)の聞えたる、

上手ならばいとをかしかるべし、

三味(さみ)も同じこと、 西片町あたりの垣根ごしに聞たるが、

いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、

物語めきて ゆかしかりし





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さゝやかなる庭の 池水

ゆられて見ゆる月かげ物言ふやうにて、

手すりめきたる 処に寄りて久しう見入るれば、

はじめは浮きたるやうなりしも次第に底ふかく、

この池の深さいくばくともられぬ 心地て、

月は そのそこののいと深くに住むらん物のやうに思はれぬ、

久しうありて(あふ)ぎ見るに空なる月と水のかげと

いづれを 誠(まこと)のかたちとも思はれず、物ぐるほしけれ



(あけ)ぬれば月は空にへりて 名残りもとゞめぬを。




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樋口一葉『月の夜』 編集あり)

 月かげ 意味1 月の光
     意味2 月の光に照らし出された人や物の陰影
     意味3 水に映った月

この随筆では三つの意味を巧みに使い分けています。
技巧的であるとともに、読み手の技量を試しているかのような文章です。




当地は残念ながら曇りの予報です
皆様には、ゆかしくものぐるほしい(心惹かれ、気持ちが高ぶる)
宵をお過ごし下さいませ。