ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

武蔵野の時雨の人なつかしく私語ささやくがごとき趣あり

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photo mripp






もしそれ時雨の音に至ってはこれほど幽寂のものはない。


山家の時雨は我国でも和歌の題にまでなっているが、


広い、広い、野末から野末へと林を越え、杜(もり)を越え、田を横ぎり、また林を越えて、


しのびやかに通り過ゆく時雨の音のいかにも幽(しず)かで、また鷹揚な趣きがあって、


優しく懐ゆかしいのは、じつに武蔵野の時雨の特色であろう。



自分がかつて北海道の深林で時雨に逢ったことがある、


これはまた人跡絶無の大森林であるからその趣はさらに深いが、


その代り、


武蔵野の時雨のさらに人なつかしく、私語ささやくがごとき趣はない。







武蔵野 国木田独歩