わが家の最強ボジョレーヌーボーな一日

「買ったから，買わないで。」

ある日通勤前のねこじが言った。

「新ワイン、今年は出来がいいらしい。」

わが家はワイン党ではない。
ワインのことは良く知らない。当然ボジョレーヌーボーなるモノを今まで買ったことはない。
というのは、二人ともワインに悪酔いする体質なのだ。飲酒の翌日は、一日中頭痛に苛まれる。
だからわが家の常備ワインは料理用の2L一番安い赤と白と決まっている。

「いらないよ。」

言ったが、遅い。
会社の義理で二本も買ったという。

「二本も？」

しかも高い。
自分がワインを飲めないこともあり、常日頃、

「向こうじゃ水より安いらしいよ。」

とうそぶき、草木もなびくワインブームをはすに眺めているねこじだが、会社の命令で初購入と相成った。

夜。
帰ってきたねこじ。

「一杯分だけは何とか確保した。」

と、粉々になった瓶を差し出した。
驚き、口あんぐりの私を尻目に

「いや～、まいったまいった。」

「自分がこうならなくて良かったよ。」

聞けば、バイク通勤のねこじ、カーブを曲がるとき、勢い余ってハンドルにぶら下げていたワインの袋がすっぽ抜け、
グワッシャ～ン！
そのかけらを広い集めて帰って来たらしい。
奇跡的にその底の部分に残ったたった一杯分のボジョレーヌーボー。
とりあえず、その貴重なワインを、ていねいに漉して二人でいただいた。

「んまいっ！」

多分今まで飲んだワインの中で一番美味い。
我々にとって最も高くついたワインだからなのか、たった一杯を二人で分けあったからなのか、
バイクにぶら下げて振り回したのが良かったか、漉したのが良かったか
とにかくうまかった。
最強なのは、量が少ないので次の日の頭痛がなかったことだ。


数年前のボジョレーヌーボーにまつわるお話。
今年は例年より少ないとか。

イタリアの新酒も同様に美味しいらしいですが……？

（photo by あけぼのさん）