芥川龍之介『地獄変』
夏休みの読書感想文 2(暗黒編)
苦手な方はスルーでお願いします。
写実をその画風とする天才絵師、良秀。
しかし、
その卑しい容貌と傲慢な性格。更には常軌を逸した制作方法で、
皆に疎まれ蔑まれていた。
かたや、日の出の勢い、権力の頂点にいた堀川の大殿。
大殿は良秀を試すかのように、地獄変相図の屏風絵の制作を依頼するのだが……。
この作品は、表現方法こそ文章によるものだが、
確かに絵画的であると言わざるを得ない。
絢爛豪華な極彩色の世界だ。
作者は目に見えたものを、写し取っていたかのようだ。
人はそれを『想像力』と呼ぶが、そのような一般的な並のレベルでは、
これほど凄まじいものが描けるとは思えない。
いわゆる『共感覚』を思わせる描写が、芥川の作品にはいくつか見受けられるように思う。
つまり『炎』と一文字紙に書けば、
そのペン先からめらめらと赤い炎が生まれ出て、作者自身の身を焼き付くす。
燃え盛る炎の中で、断末魔の苦しみに身悶える女房。
その姿に我が意を得たりと、立ち尽くす画家の姿は、まさに作者自身だ。
ある種突き抜けた高揚感に支配される、恐ろしくも美しいクライマックスシーン。
画家は皆に蔑まれていたが、ある場では、大殿よりも他の誰よりも
高尚な位置にいた。
芸術という舞台の上では。