『小僧と牡丹餅』三遊亭円朝
主「さだ吉や。
定「へえお呼びなさいましたか。
主「此の手紙を矢部の処へ持つて参ゐれ、
たゞ置いて来れば宜いんだよ返事は入らないから、さア使ひ賃に
牡丹餅(ぼたもち)を遣らう。
小「有りがたう存じます。
主「其処で食べるなよ、帰へつて来てから食べなさいな。
小「へえ、夫れでも是れを置いて参ゐりますと、栄どんだの文どんが皆食べて終まひます。
主「夫れでは何処か知れない所へ隠して置け。
小「へえ宜しうございます…………
何処へ隠くさうな、アヽ台所へ置けば知れないや、
下流(したながし)へ斯う牡丹餅を置いて桶で蓋をしてと、
人が見たら蛙(かへる)になるんだよ、宜いかえ人が見たら蛙だよ、
おれが見たら牡丹餅だよ。
と密(そつ)と隠して出て行くのを主人が見て、
アハヽ是れが子供の了簡だな、人が見たら蛙とは面白い、
一ツあの牡丹餅を引き出して、蛙の生きたのを入れて置いたら小僧が帰へつて来て驚くだらうと、
洒落た御主人で、夫れから牡丹餅を引き出してしまつて、生きた蛙を一疋はふり込んで置きました。ところへ
小「往つて参ゐりました。
主「大ほきに御苦労だつた、早く牡丹餅を食べな。
小「へえ、有難たう存じます、アヽこゝなら誰も知りやアしない
桶で蓋をしてあるから気が附かない。
と開けて見ると蛙が飛び出した。
小「アレ、こりやアいけねえ、おれだよ、オイ/\、ホツ/\、そんなに飛ぶと餡が落ちるよ。
三遊亭円朝『日本の小僧』