ookumanekoのブログ

言葉を味わう 文学の楽しみ

『小僧と牡丹餅』三遊亭円朝

主「さだ吉や。

定「へえお呼びなさいましたか。

主「此の手紙を矢部の処へ持つて参ゐれ、
たゞ置いて来れば宜いんだよ返事は入らないから、さア使ひ賃に
牡丹餅(ぼたもち)を遣らう。

小「有りがたう存じます。

主「其処で食べるなよ、帰へつて来てから食べなさいな。

小「へえ、夫れでも是れを置いて参ゐりますと、栄どんだの文どんが皆食べて終まひます。

主「夫れでは何処か知れない所へ隠して置け。

小「へえ宜しうございます…………
何処へ隠くさうな、アヽ台所へ置けば知れないや、
下流(したながし)へ斯う牡丹餅を置いて桶で蓋をしてと、
人が見たら蛙(かへる)になるんだよ、宜いかえ人が見たら蛙だよ、
おれが見たら牡丹餅だよ。

と密(そつ)と隠して出て行くのを主人が見て、
アハヽ是れが子供の了簡だな、人が見たら蛙とは面白い、
一ツあの牡丹餅を引き出して、蛙の生きたのを入れて置いたら小僧が帰へつて来て驚くだらうと、
洒落た御主人で、夫れから牡丹餅を引き出してしまつて、生きた蛙を一疋はふり込んで置きました。ところへ

小「往つて参ゐりました。

主「大ほきに御苦労だつた、早く牡丹餅を食べな。

小「へえ、有難たう存じます、アヽこゝなら誰も知りやアしない
桶で蓋をしてあるから気が附かない。

と開けて見ると蛙が飛び出した。

小「アレ、こりやアいけねえ、おれだよ、オイ/\、ホツ/\、そんなに飛ぶと餡が落ちるよ。


 三遊亭円朝『日本の小僧』




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